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1963年東京都生まれ。88年秋田大学医学部卒業。95年東京大学大学院医学系研究科卒業。96年東京大学医学部附属病院助手を務め、97年ハーバード大学医学部専任講師。2000年埼玉県立がんセンター医長。04年板橋中央総合病院部長。現在は、現役医師、医療ジャーナリストとして、テレビ、雑誌等のメディアで活動中。さまざまな病気の概説や、医療に関する種々の問題に取り組む。

2016年10月1日土曜日

ヂアミトールの推定致死量 数秒で注入可能か?

ヂアミトールをヒトの血管内に投与した際の推定致死量に関する私の見解      

ヂアミトールは商品名です。ベンザルコニウム塩化物が正式の薬品名です。同じ薬品で他の製薬会社から別の商品名の薬もありますが、一連の事件では、商品名ヂアミトールの名称で統一されています。

現在、医療機関で、手に入るものは様々な濃度のものがあり、10%、50%なでの高濃度のものは希釈して医療器具の消毒に使われています。例えば、

ヂアミトール(丸石)         
10%、50
 
ヂアミトール水(日興丸石) 
0.025%、0.05%、0.2%、0.1           

静脈投与した際の致死量に関しては、以下の論文に記載されています。マウスとラットの実験でして、ヒトでの研究はありませんが、マウスもラットもほぼ同じ値を示しているので、ヒトでの推定致死量を参考までに考えてみました。

Wade A & Weller PJ ed; A handbook of pharmaceutical excipients, 2nd ed. The pharmaceutical press, London(1994): 27-31

この論文によると静注での毒性
マウスでの単回投与毒性:LD5010mg/kg
ラットでの単回投与毒性:LD5013.9mg/kg
LD50という言葉は:投与した半数が死亡する用量のことです。100匹のマウスやラットに投与したら、50匹が死亡する容量のこと。
ただし、上記は単回でそれほど時間をかけなく静脈投与した時の値で、今回の事件では、点滴にて緩やかに静脈投与されていると考えられますので以下はあくまで参考の値です。
 
️50kgのヒトだと、ヂアミトール500mg695mgを静脈注射すると半数のヒトが死亡すると推定されます。すなわち、ヂアミトール0.5g0.695gです。

犯人が使用したヂアミトールの消毒薬がそれぞれどの濃度の薬品(製剤ボトル)かによって、何ml投与したかが異なります。ちなみに今朝の朝日新聞では、10%以上の高濃度が使われたと報道されました。ヂアミトールの比重が1.0から大きくかけ離れていないと仮定します。

それぞれの濃度のヂアミトール製剤を仮に犯人が使用した場合、右に書かれてある容量(ml)以上のヂアミトールが点滴袋に加えられた場合に死亡につながる可能性が高いと算出されます。通常入院患者の点滴は500mlの大きな点滴袋を使用していていますので、仮に半分の250mlが入った時点で死亡したとしたら、以下のそれぞれの容量の二倍を点滴袋に混入させたことになります。

50%製剤   1ml1.39ml
10%製剤    5ml6.95ml
0.2%製剤   250ml347.5ml
0.1%製剤      500ml695ml
0.05%製剤     1000ml1390ml
0.025%製剤    2000ml2780ml

500mlの点滴袋には、250ml以上もの容量のヂアミトールなどの液体は混入できません!
ですから、犯人が使用したものは、上記の計算からも朝日新聞の報道のように高濃度となります。50%製剤もしくは10%製剤と推測できます。
逆に言えば、50%製剤もしくは10%製剤を用いれば、一本の点滴で殺害が可能と推定されます。ただし、この知識を犯人が知っていたかどうかはわかりません。

50%製剤もしくは10%製剤を用いれば、数mlを混入させるだけで、殺人が可能です。操作にかかる時間は、10もしくは20mlの注射器を使えば、何本もの点滴袋に次々と混入させることができ、一本あたり数秒で終わると思います。

 
極めて恐ろしい事件です。