ようこそ医療ジャーナリスト・医学博士、森田豊の公式ブログへ。

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1963年東京都生まれ。88年秋田大学医学部卒業。95年東京大学大学院医学系研究科卒業。96年東京大学医学部附属病院助手を務め、97年ハーバード大学医学部専任講師。2000年埼玉県立がんセンター医長。04年板橋中央総合病院部長。現在は、現役医師、医療ジャーナリストとして、テレビ、雑誌等のメディアで活動中。さまざまな病気の概説や、医療に関する種々の問題に取り組む。

2009年9月9日水曜日

子宮頸がんの予防ワクチンに関して

今日は話題を変えて、子宮頸がんの予防ワクチンに関して、概説します。
この内容は、9月14日発売の、サンデー毎日(9月27日号)にも一部掲載されます。
( http://www007.upp.so-net.ne.jp/morita/html/keisai_06.htm )
●体の臓器には、様々ながんができますが、そのほとんどの発症理由は解明されていません。たとえば、タバコを吸う人に肺がんが多いことはわかっていても、吸ったことのない人にも肺がんは生じます。確率的にタバコを吸っている人に肺がんが多いというのは、いわゆる疫学調査であって、本質的ながんの原因究明がなされた訳ではありません。しかしながら、子宮頸がんに関しては、ここ20,30年の間に大きな医学の進歩があったように思います。子宮頸がんの原因が、性交渉を通じたヒトパピローマウィルス(HPV)の感染によっておこり、ワクチン投与により、70%もの方が、その感染を予防できるという事実です。すでに、オーストラリアのように、12、13歳を対象に、13~18歳までの学校終了までの期間に、全員が無料で受けられるようになっている国があることや、イギリス国内では、12歳女子へのワクチン接種率は、およそ90%に達していて、その背景には学校教育、テレビ、携帯サイト、ホームページなどでの広報活動の存在があったことも事実です。近くの国で言えば、韓国も投与が開始されています。主として欧米諸国、世界108カ国でワクチンが承認、使用されているのです。がんの発症を100%防ぐというわけではありませんが、70%(日本国内では、60%ぐらいになる見込み)の子宮頸がんの予防できる医学的見地から、きわめて有用なワクチンであり、画期的な医学の進歩といえるでしょう。
国内でも、遅い進行ではありますが、何とか近々、ワクチンの投与承認許可がもらえる見込みとなってきました。ともあれ、多くの人たちが、上記の情報を知ってもらいたいと願う次第です。国によっても若干異なりますが、投与時期のほとんどが、12、13歳というきわめて低い年齢であることは、おそらく多くの方々がびっくりするように思います。理由は、性行為を開始する前だと、高い効果が望めるからです。
●その上で、日本のお父さん、お母さんが、自分の中学生の娘さんにワクチンをうけさせるかどうかが問題となってきます。日本では、性の問題が、欧米諸国と比べて、タブー視されてきました。性教育のほとんどが、保健体育の授業(おもに女子生徒のみを対象)のみにゆだねられ、家庭内で話し合われることはきわめて少ないのが事実だと思います(特に父親が話をすることは皆無といってもいいでしょう)。これは、それぞれの国の歴史的な背景によるのかもしれません。そんな状況の中で、おそらく3万円から5万円(未定)もするワクチンですから、自分の娘さんに打つかどうかに関して、両親の判断、そして、両親から娘さんへの説明も必要になってくるわけです。すなわち、学校任せにしていた性教育を、家庭の場でも話し合わねばならない時期に来たともいえるでしょう。幼児のように、何のワクチンだか説明もしないで打ってしまうわけにはいきませんね。
●これまでの学校教育に任せていた性教育の在り方を、見直す時期なのかもしれません。
ワクチン承認された後、ワクチンの普及や接種は、産婦人科医が主に行うでしょう。しかし、12、13歳のお子さんが親と一緒に産婦人科に受診となると、かなり抵抗をしめすことが懸念されます。ワクチン普及には、行政(厚生労働省)、教師(学校)、両親、小児科医、メディア、製薬会社、インターネットなど、多くの分野、人たちの、性に対する適切な指導が必要となってきます。12,13歳の女子たちが混乱しないように。
●12、13歳の娘にワクチン接種を行うことが、性交に対して『お墨付き』につながるのでは、という反対意見もあり、たとえば、アメリカの一部でも反対運動がありました。
ただし、国内の現状の初交年齢や( http://homepage3.nifty.com/m-suga/young.html )
、若年者における性の知識の普及度を鑑みると、12、13歳の娘さんに、ワクチンの重要性を説明したからといって、必ずしも、性交を『よし』とすることにはならず、親子で、性について考えるよいきっかけにもなるのではないかと、私は思っています。すなわち、ワクチン接種の問題だけではなく、妊娠や避妊の問題、性行為感染症の問題など、良い方向に、性教育が広まっていく可能性も多々あると思います。なかなかこれまで、妊娠や避妊、性行為感染症といった問題を家で、娘さんと議論するきっかけがなかったように思いますが、子宮頸がんという病気からであれば、それを突破口として、避妊や性行為に関して話をする場をつくる契機にもなるように思います。
●この画期的なワクチンを、若い女性の性行動や性教育も含めて、円滑に普及させることは意義があります。公的助成や、厚労省のリーダーシップなども期待したいところですね。

TBS特番放送を終えて

9月8日、TBSの夜の特番で、「ネプクリニック!開業 180度変わる医学常識 今夜スッキリ解決SP」が報道されました。収録は3時間あまりにも及び、私も含め医師9名、皆、疲弊した様子でしたが、最終的にはとても上手に編集され、多くの方々から反響のメールを頂戴しました。ありがとうございました。
出演者:原田泰造、堀内健/司会:鈴木おさむ、テリー伊藤、加藤シルビア、名倉潤、竹内香苗
シワ&たるみ消失!?耳の皮ふ培養で肌が10年若返る超最新美容術▽熱が出たら汗をかけ…は大間違い!?ビールは飲んでも太らない!?これまで常識だと思っていたことが、今では逆になっている医学の「新常識」を紹介する。専門医がその根拠を解説し、パネリストが自由に質問する。パネリストはネプチューンの原田泰造、堀内健。司会はネプチューンの名倉潤、竹内香苗アナウンサーでした。

2009年9月5日土曜日

政権交代と舛添厚生労働大臣

 総選挙は民主党が圧勝に終わりました。政権交代によって、医療現場がどう変わっていくのか、まだまだ全く不明瞭です。少なくとも民主党が選挙前にかかげた医療に対する政策は、再検討する必要があると危惧しています。民主党がかかげる医師数の1.5倍増員にも、各大学医学部が受け入れ困難と難色を示しています。私は、医師の偏在化(地域間の偏在、診療科別の偏在)の打開策を考えない限り、医療崩壊は止まらないと思います(私の著書、『産科医が消える前に』、朝日新聞出版に記述http://www007.upp.so-net.ne.jp/morita/)。医師の偏在化の是正こそ、医療崩壊を止める鍵だと感じます。
 さて、選挙前後、ましてや政権交代とすると、各大臣の存在感はなくなり、大人しくしているのが通常でしょうが、今回の舛添厚生労働大臣だけは、輝いて見えました。日本で第一号患者が出たときの記者会見や、その後の水際対策には、批判的な意見も多く、私もこのブログで批判してきました。しかし、今の舛添大臣は、違うように思いました。9月4日の時事通信によれば、
 「厚生労働省は4日、新型インフルエンザのワクチンについて、接種対象者の優先順位案を発表し、診療に当たる医療従事者を最優先とし、次いで妊婦と持病のある人、小学校就学前の小児、1歳未満の乳児の両親の順で優先グループとした。同省は国民から意見を募集。専門家や患者団体側の意見も聴き、月内に正式決定する。国内4社が来年3月までに製造可能なワクチンは約1800万~3000万人分にとどまる見通しで、優先グループにまず割り当てる。小中高校生と高齢者には国産が足りない分、海外メーカーから輸入したワクチンを用いる。輸入ワクチンは当初、国内の臨床試験(治験)を省略する「特例承認」を検討するとしていた。しかし、国内で使用されたことのない免疫補助剤(アジュバント)が添加されており、副作用リスクが高いとみられることから、接種開始前に小規模な治験を行い、接種後に問題が生じた場合には使用を中止することにした」。
 立つ鳥跡を濁さずという言葉がありますが、最後の最後まで、よくがんばっている様子を感じました。少なくとも、新型インフルエンザに対しては、自民党が四苦八苦し、試行錯誤して、ここまでにたどり着いた経験が、民主党へ円滑に引き継がれることを祈願します。