ようこそ医療ジャーナリスト・医学博士、森田豊の公式ブログへ。

森田豊医師の公式HP(http://morita.pro/)はこちらからご覧ください。
1963年東京都生まれ。88年秋田大学医学部卒業。95年東京大学大学院医学系研究科卒業。96年東京大学医学部附属病院助手を務め、97年ハーバード大学医学部専任講師。2000年埼玉県立がんセンター医長。04年板橋中央総合病院部長。現在は、現役医師、医療ジャーナリストとして、テレビ、雑誌等のメディアで活動中。さまざまな病気の概説や、医療に関する種々の問題に取り組む。

2010年1月21日木曜日

新型インフルエンザワクチンが余る!!

フジテレビ、特ダネ!、の取材を受けた際に、検証した内容をブログにしました。
 厚生労働省が欧州の二つの製薬会社から輸入することを決めた新型インフルエンザ用のワクチンについて、医療機関の需要はほとんどない状態であることが47都道府県への聞き取り調査で分かったようです(東京新聞、1月20日朝刊)。輸入予定のワクチンは成人換算で9900万人分で、総額1126億円です。厚労省は20日付で都道府県から輸入ワクチンを希望する医療機関の数などの報告を受けますが、現時点での需要を「ゼロ」「発注見送り」としたのは、26都府県もあったようです。国産ワクチンも余剰気味の状況です。長妻昭厚生労働相は、19日の記者会見で、新型インフルエンザワクチンは今シーズン中に次の流行が起きるかもしれないことを勘案しても「現時点で余る公算が大きい」との認識を示して、「各国の対応を見ながら、メーカーとの(余剰分の解約)交渉ができるかも含め検討している」と明かしたようです。
●その背景を検証してみます。
(1)2009年10月より、医療従事者、妊婦、などの順で、優先接種が始まりました。当初2回投与が必要と言われていたものが、WHOからの情報により、厚労省も一転、二転して、結局、13歳以上は1回で効果があると判断したわけです。2回から1回になることで、かなりワクチン供給量に余裕ができました。
(2)新型インフルエンザが流行のピークを越え、優先接種対象者でも、有料でのワクチン接種を希望するが人が少なくなりました。
(3)新型インフルエンザの致死率や重症化率が従来の季節性インフルエンザよりはるかに低いこと(2009年12月8日のブログ参照、フジテレビFNNスピークでコメント)、また、仮にかかっても、タミフル、リレンザでほとんど治癒できるものだということが、多くの人に理解されるようになり、国民の不安が少なくなってきたことが、接種希望者の減少につながったのかもしれません。第二優先接種対象者である妊婦においても、我々が当初予想していたほど、ワクチン接種希望者は多くなく、接種率のデータは国内にはないのですが、例えばイタリアにおける妊婦の接種率は10%とも報告されたのは注目に値します。
●どうすべきだったのか?
 新型インフルエンザに関する情報、国民の危機感、不安感、そしてワクチンの希望者の数は、時間経過とともに、大きく変化しました。自民党政権時代に、一号患者、二号患者と報道されていた時は、なんとしてでも多くのワクチンを獲得すべきと判断したのでしょうし、国民の不安も絶頂に達していたように思います。しかし、徐々にその過剰な反応がうすれつつ、それほど怖い病気でないことの実態がわかってきた現在、ワクチン接種希望者が減少するのは理屈にあった現象なのかもしれません。西欧諸国でも、大幅な余りが生じ、フランスなどでは、「血税の浪費」「業界への利権誘導を図り政府が水増し発注したのではないか」などとも報道されているようです。当初の国内における新型インフルエンザに対する過剰な反応が、日本でもよりいっそうワクチンを余らせる要因になったのでしょう。そこで、もしも、反省する点があるとしたら、どこでしょうか?厚生労働省は、各都道府県を通じて、各医療機関ともっと密に連携して、それぞれの時点で、どのぐらいの需要があるのかを、経時的に、頻回に、詳細に、把握するように努めるべきだったように思います。これまでの、厚生労働省⇔都道府県⇔各医療機関への通達文章、提出書類をみていると、それぞれの優先接種対象者の順番が回ってきた際に(通常は約2週間前)、各医療機関におけるその優先対象者のみにおける希望の投与数を記載させて、それを考慮して分配するという単純な通達経路しか働いておらず、もっと長期のビジョンにたった需要量の把握に対する努力もできたのではないかとも思います。国内だけではなく、世界のワクチンの需要と供給の動向、また、当初言われていたほど危険な病気ではないのだという医学的データをも、冷静に判断すれば、余りが生じることも、もう少しだけでも早めに予見できたようにも感じます。
●最後に
おそらく、輸入ワクチンの成人換算で9900万人分、総額1126億円の大半が余ることになりそうです。メーカに余剰分の解約が可能であればそれに超したことはありませんが、かなり前から確保しているものだけにメーカ側も難色を示す可能性は大です。フランスのように、他の国に転売したり、あるいは発展途上国などに寄付することも考えていくのでしょう。

2010年1月15日金曜日

第三のインフルエンザ治療薬、ペラミビル

タミフル、リレンザに続く、インフルエンザの第三番目の治療薬であるペラミビル(塩野義製薬)の製造と販売の承認が、1月13日、厚生労働省よりおりました。新型インフルエンザが流行し治療薬の需要が高まる中、厚生労働省が審査を優先して極めて早いスピードで承認したことは注目に値します。ペラミビルの正式な承認は、日本が世界で初です。点滴注射の形で投与すること、一回投与(おおよそ15分)のみでタミフルやリレンザを5日間投与したものと同等の効果があること、発症後比較的時間が経っていても効果があること、副作用が少ないことなどが特徴です。人工呼吸器を装着している方や内服ができない人にも投与可能で、さらに、タミフル、リレンザのように発症後48時間以内ではなく、もう少し時間が経ってからも効果があるようですので、発熱してすぐに病院に殺到しなくともよいかもしれません。
詳細は、プレジデントファミリーに掲載されました。
http://www007.upp.so-net.ne.jp/morita/image_keisai/president_family.jpg/