●一般の細胞は、元をたどれば、精子と卵子が受精してできた受精卵が、変化してできていったものです。受精卵は、様々な組織や臓器に変化する能力があるのですが、変化して作られた組織や臓器の細胞は、その臓器の細胞としてしか役割を果たしません。しかし、この組織や臓器の細胞から、何にでも変化できる受精卵のような細胞(幹細胞)を作ることに成功したのです。幹細胞=身体のあらゆる組織や臓器になることができる細胞、すなわち、どんな役割も演じる細胞に変化できる細胞 を作ったのです。
●今回のiPS細胞の作成の前にも、ES細胞という幹細胞がありました。しかし、ES細胞は、受精卵から作られる細胞であり、生命の源であることから、これを用いた基礎研究や、臨床応用には、倫理的な縛りが強かったのです。これに対して、iPS細胞は、自分の細胞(たとえば皮膚細胞)から幹細胞をつくるため、倫理的な問題は少ないし、拒絶反応が少ないであろうということが多大なる期待が持てる点です。
●臨床応用への多大なる期待
患者さんへの細胞の移植(具合の悪い身体の部分に移植できる)が可能になるでしょう。脊髄に怪我をした脊髄損傷患者に、iPS細胞からの神経細胞を移植、心臓の細胞が壊死した時にiPS細胞からの心筋細胞を移植、大きな火傷を負った患者さんへのiPS細胞からの皮膚細胞を移植、などなど、無限な応用の可能性があります。
また、難病の患者さんの細胞(たとえば皮膚)から、このiPS細胞を作り出し、特定の細胞を作ることもでき、どんな薬が難病に効果があるのか、細胞に害があるのかも研究できます。新薬開発に大きな飛躍が期待できるのです。
●今後の課題は二つあります。
ヒトの細胞からiPS細胞を作る際、ヒトの細胞に遺伝子を入れなければならないので、その際にガンなどが発生しないかどうかを慎重にしらべて、それを解決しなければなりません。また、このiPS細胞からは、精子や卵子といった細胞も作成可能です。たとえば、男性から卵子を作ったり、女性から精子を作ったり。同性の夫婦間での子孫も作ることが技術的に可能になりますが、倫理的な問題はつきまといますので、技術適応範囲に関する議論が大切です。