ようこそ医療ジャーナリスト・医学博士、森田豊の公式ブログへ。

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1963年東京都生まれ。88年秋田大学医学部卒業。95年東京大学大学院医学系研究科卒業。96年東京大学医学部附属病院助手を務め、97年ハーバード大学医学部専任講師。2000年埼玉県立がんセンター医長。04年板橋中央総合病院部長。現在は、現役医師、医療ジャーナリストとして、テレビ、雑誌等のメディアで活動中。さまざまな病気の概説や、医療に関する種々の問題に取り組む。

2009年8月16日日曜日

民主党の医療政策(マニフェスト等から)についての私の検証

 月末の総選挙で政権をとるであろう民主党のマニフェスト等、医療に関する政策に関して私の検証を書きました。
 一部は、サンデー毎日8月16日、23日号に、連載されます。
結論は、民主党は今一度、現実を見据えた政策を再考すべきではないか、ということです。

●民主党の新型インフルエンザに関する考え方
目前にある危機は中程度の毒性ウイルスによる第二波到来。危機管理体制を再構築、診断・相談治療体制の実態を速やかに把握できるようにする。発熱センターを強化し、感染症対応の隔離個室確保、整備。各医療機関の診療マニュアル策定、陰圧個室設置、治療用テント、医療資器材、施設設備を国の予算で十分な額を支援。徹底した情報開示を恒常化し、新型インフル行動計画ガイドラインを全面的に見直し、検疫法のあり方を検討。強毒性新型インフルのプレパンデミックワクチンを希望者すべてが受けられる体制を整備し、輸血を介した感染防止の新技術を導入。被害を最小限にとどめるため日中韓を中心に東アジア全体で新型インフルに対応できる体制をつくる。
私の検証(民主党の新型インフルエンザ)
民主党が「目前にある危機」としてマニフェストに掲げた「中程度の毒性のウイルスによる第二波の到来」に対して、「感染症対応の隔離個室確保・整備」と明記していたことには驚きました。これでは医療現場がパニックを起こすでしょうね。隔離個室の確保には通常個室を転用しなければならないし、増床などすぐにはできないことで、そのために、がんや糖尿病などで個室入院中の患者に移動してもらわなければなりません。診療所や民間医療機関はそれを避けるため、新型の疑いの患者を敬遠することも考えられます。まさしく、この政策は、医療崩壊を助長することになります。そもそも、自民党がすでに、「今回の新型インフルエンザは弱毒性で、季節性インフルエンザと同等にあつかう」と、それまでの自らの政策に関して、反省をこめて経験を生かして結論づけたことが、全く引き継がれられないことは、残念でたまりません。「発熱センター、隔離個室、陰圧個室、治療用テント」、すべて、時代の後戻りです。どうして、新型インフルエンザだけが、毒性を変えると断定し騒ぐのだろうか? 季節性インフルエンザで多くの死亡者がでていることや、毒性を変える可能性もあることを理解してもらいたい。むしろ「院内感染対策の徹底」や「医療従事者の感染防止強化」など、経験を生かして医療が求める政策をたてた自民党の方が賢明だと思います。また、民主党は「希望者のすべてが受けられる体制に整備」としていますが、実際、生産量には限度があり不可能なことは、わかっているはずです。ワクチンの争奪戦になれば国際問題になるのは避けられないでしょう。「東アジア全体で体制をつくる」というのも、国際的にはよくわからない話である。

●民主党のがん対策に関する考え方
国内どこに住んでいても最善のがん検診・治療が受けられる体制を確立させる。乳がんや子宮頸がん、大腸がん、肺がん、胃性が高いがん検診受診率を大幅に向上させるよう受診しやすい体制を整備。がん予防に有効なワクチンの開発・接種の推進、禁煙対策のがんなど有効徹底化等を通じて、がんの予防対策をより一層強固なものにする。また、がん患者への最新のがん関連情報の提供や相談支援体制などの充実を図り、日本のがん対策の現状把握、がん登録の法制化も検討。化学療法専門医、放射線治療専門医も養成。
私の検証(民主党のがん対策)
マニフェストで、民主党は「国内どこに住んでいても最善のがん検診・治療が受けられる体制を確立させる」と明記していますが、しかし、具体的にそれをどう進めるかには触れてはいません。これは、医療崩壊をくい止めるための、医師の地域間、診療科間の偏在性是正というもっとも重要な問題です。たとえば、僻地医療をになう勤務医の収入を大幅に上げる、国公立大を奨学金で卒業した学生は僻地赴任義務を10年間負うといった抜本的対策に踏み込まない限り改善は進まないのではないかと思います。自民党も「医師偏在の解消へ向けた臨床研修医制度」と書いてはいますが、残念ながら、制度は2年。3年目には医師が希望地へ散逸していくのは防げないのでしょうが、民主党の漠然とした理想論よりは、より具体的かもしれません。

●民主党の救急医療に関する考え方
救急本部は、通報内容から患者の緊急度、重症度を判断し、継承の場合は医療機関の紹介等を行い、重症の場合は救急車や消防防災ヘリ、ドクターカー・ドクターヘリ等、最適な搬送手段により医療機関に搬送。そのため現在96台のドクターカーをすべて209ヵ所の救急救命センターに配置し、72機の消防防災ヘリをドクターヘリとしても活用できるよう高規格化し救急本部ごとのドクターヘリ(現在16機)配備を目指す。救急救命士の職務拡大を着実に図る。救急搬送時、意識障害の鑑別には血糖値の測定が必要であり、救急救命士も簡易な血糖値の測定ができるよう体制の整備に着手。
私の検証(民主党の救急医療対策)
ドクターカー、ドクターヘリなど、アトラクティブな語彙を並べているが、これで何人の数の患者が救われるのか、大きな変革、抜本的な改革にはならないと思います。また、救急救命士の血糖値測定というきわめて、末端なことに触れたのはなぜなのか、これも疑問です。
救急医療対策でもっとも大事なのは、前述した医師の地域間、診療科間の偏在性是正でしょう。民主党も自民党も、医師数増加をあげているが、もっとも大事なのは、偏在化の是正です。自民党の言う「大学病院の医療体制を整備し、医師偏在の解消へ向けた臨床研修医制度とする。社会保険病院・厚生年金病院については、地域医療の確保の観点から必要な病院機能を維持するよう対応する。診療報酬は救急や産科をはじめとする地域医療を確保するため、来年度プラス改定を行う。」の方が、まだ具体性があるように思います。