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1963年東京都生まれ。88年秋田大学医学部卒業。95年東京大学大学院医学系研究科卒業。96年東京大学医学部附属病院助手を務め、97年ハーバード大学医学部専任講師。2000年埼玉県立がんセンター医長。04年板橋中央総合病院部長。現在は、現役医師、医療ジャーナリストとして、テレビ、雑誌等のメディアで活動中。さまざまな病気の概説や、医療に関する種々の問題に取り組む。

2011年6月1日水曜日

放射能と生殖機能(サンデー毎日)

サンデー毎日、6月12日号にて、放射能が生殖機能に与える影響をコメントしました。
体の臓器の中で、生殖腺すなわち、精巣や卵巣は、放射線の影響をうけやすい(感受性が高い)臓器の一つです。性成熟期の生殖腺の中では、精子と卵子(生殖細胞)は、細胞が常に、増殖しています。多量の放射線に被曝すると、生殖細胞の分裂が直ちに停止し、生産が中止されるため、結果として、細胞の枯渇が起こり、不妊となります。被曝線量に比例して、細胞は枯渇していきます。また、遺伝的影響として、次の世代の細胞の染色体異常や突然変異を起こし、発がんに結びつく可能性も高いのです。 さて、まず、単位の説明から。
●ベクレルというのは、放射線を出す能力の単位。
シーベルトというのは、放射線を人の体が浴びた際の影響を示した単位。(通常は一時間あたりの単位を示しています。)
ろうそくにたとえると、ろうそくの明るさ自体が、ベクレルで、それがどのぐらい人にとってまぶしいかを表現するのが、シーベルトという単位です。
放射性物質の種類、摂取経路によって、人体への種類は異なるため、一般的には、シーベルト=ベクレル×放射線の種類や摂取経路によって異なる係数。その他に、グレイと言って、人体への放射線の影響を示す線量の値がありますが、放射線のほとんどをベータ線とすれば、1シーベル=1グレイと考えてよいでしょう。
●精巣の一時的不妊を起こす被曝量は、150ミリシーベルト (以下すべて総量で)
精巣の永久不妊を起こす被曝量は、3500~6000ミリシーベルト
卵巣の一時的不妊を起こす被曝量は、650~1500ミリシーベルト
卵巣の永久不妊を起こす被曝量は、2500~6000ミリシーベルト
●胎児の奇形を生じる可能性が高くなる値は、100ミリシーベルト
●胎児の重度精神発達遅滞を生じる可能性が高くなる値は、5000ミリシーベルト
厚生労働省は、ヨウ素100ベクレル、セシウム200ベクレル以下なら子どもへの影響はないと説明しています。ベクレルとシーベルトの関係は、放射線の種類や、摂取経路によって異なります。上記にあるように、放射線の種類や摂取経路によって異なる係数を乗じて算出されます。
たとえば、厚生省が言っているヨウ素100ベクレル、セシウム200ベクレルだとすると、それぞれの係数を乗じて、シーベルトに換算すると、
ヨウ素100ベクレルの場合は、100ベクレル×2.2×10-5=0.0022ミリシーベルト
セシウム200ベクレルの場合は、200ベクレル×1.3×10-5=0.0026ミリシーベルト
被曝したことになります。
●厚生労働省がいう、ヨウ素100ベクレル、セシウム200ベクレル以下というのは、極めて曖昧で、それらを何時間被曝したかが最も重要な要素になります。様々な報道がありますが、結局わかりにくいのは、今後、何ヶ月、何年の被曝が続くかがわかっていないからだと思います。
たとえば、
精巣の一時的不妊を起こす被曝量は、総量150ミリシーベルトですが、ヨウ素100ベクレルの場合、人体には、一時間あたり、0.0022ミリシーベルトがあたっているわけで、除して計算すると、68182時間=2840日=7.78年となります。
ヨウ素100ベクレルを、7.78年被曝し続けて、精巣の一時的不妊になる計算です。(おおざっぱな計算ではありますが、参考になる値です。)
●こういった、時間を考慮した検討は、我々にとってとてもわかりやすく、正しく心配できます。
たとえば、日本産科婦人科学会からの案内もわかりやすかったです。
http://morita2009.blogspot.com/2011/03/blog-post_24.html