ようこそ医療ジャーナリスト・医学博士、森田豊の公式ブログへ。

森田豊医師の公式HP(http://morita.pro/)はこちらからご覧ください。
1963年東京都生まれ。88年秋田大学医学部卒業。95年東京大学大学院医学系研究科卒業。96年東京大学医学部附属病院助手を務め、97年ハーバード大学医学部専任講師。2000年埼玉県立がんセンター医長。04年板橋中央総合病院部長。現在は、現役医師、医療ジャーナリストとして、テレビ、雑誌等のメディアで活動中。さまざまな病気の概説や、医療に関する種々の問題に取り組む。

2009年12月24日木曜日

10年ぶりの診療報酬引き上げには、どんな意味があるんでしょう?

以下は、12月24日放送、ニッポン放送、お早うGoodDayでお話した内容です。
政府は、2010年度診療報酬の改定率について、全体で0.19%の引き上げることを決めました。これまで10年は「マイナス改定」で、プラス改定は2000年度以来、10年ぶりです。この引き上げで、長妻厚生労働大臣は「医師不足を解消させたい」としていますが、果たして効果はあるのでしょうか?
以下に私の考えを列挙します。
●小泉政権以来、医療費はずっと抑えられてきました。これがやっと増加に転じたことには、歴史的政治的には意義はあります。しかしながら、診療報酬の引き上げは、医師不足や医療崩壊を防止するための改革には、ほとんどつながらないと考えます。
●国民の負担としては、診療報酬が0.19%増加という数値は、平均年収の方では、保険料が年間285円、外来窓口負担金が一ヶ月あたり7.8円の増加で、それほど大きな問題ではないかもしれません。しかしながら、失業率が高く景気がわるい我が国の国民の負担が少しなりとも増加するのに、もし、あまり大きな効果が望めないとしたら、残念なことです。
●民主党としては、政権交代をして、これまで自民党による医療費削減ということから脱却する、または、政治主導にしたいという、民主党の「何かしたい」というアピールだったようにもとれます。
●特に、長妻厚生労働大臣は「10年ぶりの引き上げによって、医師不足が深刻で非常に厳しい状況に陥っている救急医療や産科、小児科などの体制を充実させるきっかけになると思う」と述べました。しかし、私は、救急医療や産科小児科の体制充実にはつながらないと思います。開業されている医師に対しては、少しの増収はあるかもしれませんが、勤務医にはおいては、診療報酬が増加しても、給与が変わるわけではありません。増えた報酬は、病院経営維持のために回されるのが慣例ですね。救急医療や産科、小児科から医師がいなくなるのは、激務に加えて訴訟のリスクが高いためで、仮に給与をもっと大幅増加させても効果はあまり期待できないと考えます。
●現在の医療が抱えている最大の問題は、第一に、「診療科別の医師数の偏在」。たとえば、救急医療、産科、小児科の医師が慢性的に不足しつつあることです。いわゆる、重労働で訴訟のリスクの高い診療科医師のなり手が少なくなっていることです。第二に、「地域別医師の偏在」。地方では、医師不足のため、近くに通う病院がないという状況まで生じています。
●これらを改善するには、「診療報酬や医療費アップ」では効果は望めません。第一の「診療科別の医師数の偏在」には、診療科別の医師の定員化等を検討すべきです。このようなシステムを構築できるのは、厚生労働省だけです。第二の、「地域別医師の偏在」には、たとえば国公立大医学部出身者に、その地域にある期間、残ってもらうようなシステムを作ることも一つの案ですね。
●診療報酬のような「お金」で、医療崩壊を解決しようとするのではなく、もっと現状を把握した上で、「知恵や英知」で、システム作りをすることの方が重要に思えてなりません。

2009年12月8日火曜日

新型インフルエンザの国別死亡率では日本が最も低い

12月8日、フジテレビ、FNNスピークで一部コメントした内容です。
日本では、新型インフルエンザの重症化率や死亡率が低いことや、その理由を記載しました。国内では、季節性インフルエンザにおける死亡率にくらべて、新型インフルエンザでは、10分の1から、50分の1の死亡率と言えます。
また、日本がタミフルなどを容易に使用できる環境にあることなどの特徴性もしめしてあります。
●11月6日のWHOの発表によれば、日本における新型インフルエンザ患者の重症化率(入院した率)は10万人に2.9人、死亡率は100万人に0.2人と、数十カ国の中で最も低い。最も死亡率が高いのは、アルゼンチンで100万人に14.6人でした。日本での死亡率はアメリカの30分の1、世界平均の数百分の1です。なんで日本では、重症化率や死亡率が最も低いのでしょう?。 
●これは、日本において、タミフル、リレンザといった抗インフルエンザ薬の供給が十分であり、医師が積極的に処方し、患者も服用できるといった背景に基因する結果と思います。
●たとえば、アメリカでは、米疾病対策センター(CDC)が 「健康な人は新型インフルエンザに感染しても、タミフルやリレンザなど 抗ウイルス薬による治療は原則として必要ない」とする方針を発表しています。供給に限りがあること、耐性ウイルスの出現の恐れなどを理由に挙げています。  逆に日本では、感染症学会が「インフルエンザかどうかわからない疑い例であっても、積極的にタミフルを投与すべき」という方針を発表しています。日本では、インフルエンザキットで陰性の結果がでても、医師の裁量でタミフル、リレンザを処方できるわけです。その結果、日本でのタミフルの同じ人口あたりの消費量は、米国の20倍以上とも言われています。
「熱発したらすぐ医者に行く」国民性の国(日本)と、「熱が出たくらいでは医者には行かない」という国民性の国(他国)では、後者の方が有意に致死率は高くなるのでしょう。
●厚生労働省の徹底的な水際対策から始まり、連日、繰り返された様々なメディアでの積極的な報道姿勢は、我が国では特徴的でした。世界の中でも、我が国は国民全員が、新型インフルエンザに対してとても過敏になったのです。熱発したらすぐ医者に行くという傾向を生み出したのかもしれません。そして、タミフル、リレンザが、他の国より多く処方され、新型インフルエンザの国別死亡率では日本が一番低いという結果になったのだと考えます。
●しかしながら、我々は、この結果を慎重に見なければなりません。まずは、これだけタミフル、リレンザを積極的に多量に使用している我が国は、将来的には、これらの薬の効かない耐性インフルエンザウィルスを生み出す確率も高くなることです。また、グローバルな観点からは、タミフル、リレンザが国際的に偏在なく供給され、必要欠くべからざる人にのみ投与されるのが、正論のようにも思えてなりません。

2009年11月15日日曜日

新型インフルエンザワクチン投与開始により現場は混乱?

 ワクチン1回投与、2回投与など、一転二転しましたが、国内でも新型インフルエンザワクチンの投与が開始されました。そんな中で重大な問題があがってきています。以下に列挙します。
●現場でもっとも問題になっているのが供給されたワクチンの形状です。 ワクチンの1回接種量は、新型も季節性も、成人(13歳以上)0.5 mlで、最も少ない量で0歳児が0.1 mlです。従来の季節性のワクチンは、1 ml容器で供給されていましたが、新型ワクチンは、10 mlと1 mlが混在して供給されました。そして、10 mlの容器の方が多く供給されているようです。生産効率を上げるためだったようです。計算上は20名~100名分のワクチンが1容器に同梱されていることになります。そして、10ml容器中の薬液は、24時間以内に使い切る必要があるのです。一つの容器を開けたら、20名~100名分の人をあつめて24時間以内に使い切らなければならないということは、余分で捨てなければならない無駄なワクチンが生じてしまうことになります。特に一人の投与量の少ない小児科では、一日の摂取患者数をかなり多くしないと、あまったワクチンを捨てなければならないことになります。まさしく小児科の現場は戦場ですね。
国会でも、この問題が取り上げられ、舛添前大臣の「10 mlを使ったら無駄に廃棄することになる」という質問に対し鳩山首相が「破棄されてはならないと思っている」と答弁されています。http://lohasmedical.jp/news/2009/11/06122858.php
11月12日、鳥取県の病院で、余った新型インフルエンザワクチンを職員親族に接種したことが各紙で報じられました。 (2009/11/11読売新聞、朝日新聞、日本海新聞)。 記事の読者は「皆が希望する新型ワクチンを、便宜を図って身内の職員親族に接種するとはなんとずるい病院だろう」と思った人も多いのではないでしょうか。しかし、仮に病院が薬液を破棄していたらどうでしょうか?。その場合「大切な新型ワクチンを破棄していた病院」と報道されていたかもしれません。11月14日になって「新型ワクチン、不便な大瓶 10ミリ、一度に使い切れず」と題す
る記事が朝日新聞に掲載されました。この問題にメスをいれた朝日新聞は大変すばらしいと感じます。ともわれ、この10mlの問題、国も何らかの方針を出すべきではないでしょうか?

●第一優先接種対象である医療従事者ですが、医療側からの必要量と、供給量に大きな差がありました。供給量が少ないので、投与されない医療従事者からの愚痴をよく耳にします。医療従事者の中でも、直接インフルエンザ患者に接する可能性の高い診療科や医療従事者ということに限定されました。しかしながら、この定義が、とても曖昧で、それぞれの病院が独自の考えで対象となる医療従事者を決めているのが現状です。
医師と看護師のみなのか、看護助手、事務も含めるのか、それもすべて各病院で決めることなのです。たとえば、40才以上は、最もインフルエンザに暴露される機会の多い小児科医師でも感染するリスクは低いから投与しないという大学病院もあったり、ほとんどインフルエンザ患者に接する機会のない診療科の医師にも投与していたり、ほとんど患者と接する可能性の少ないところで働いていた薬剤師らにも投与していたり、まったくまとまりのない状況です。病院の中では、なんで「彼らが投与されて、私が投与されないの?」といった意見も耳にします。中には、「私に投与した方が、お国のためになるのでは?」、といった危ない発言も耳にします。根元には、厚生労働省が、それぞれの診療科やインフルエンザに関わる医療従事者の数を把握していなかったことに問題があると思います。どこの病院にどれだけのインフルエンザワクチンを配給するかについても、今回は、病院の申請数を考慮して、それよりも少ない数を配給したわけです。製造期間中、配給する前にかなり時間があったのにも関わらず、どうして、もっとよく調査しなかったのでしょうか?そして、供給量不足ということはかなり前から分かっていたことですから、誰もが納得する一定の基準を、なぜつくらなかったのでしょうか?現場は混乱します。そして何よりも、医療従事者を介する感染拡大を防止するということが目的なのですが、この病院間の投与基準格差により、施設による感染拡大の予防効果に大きな隔たりが出てしまったようにも思います。

2009年9月9日水曜日

子宮頸がんの予防ワクチンに関して

今日は話題を変えて、子宮頸がんの予防ワクチンに関して、概説します。
この内容は、9月14日発売の、サンデー毎日(9月27日号)にも一部掲載されます。
( http://www007.upp.so-net.ne.jp/morita/html/keisai_06.htm )
●体の臓器には、様々ながんができますが、そのほとんどの発症理由は解明されていません。たとえば、タバコを吸う人に肺がんが多いことはわかっていても、吸ったことのない人にも肺がんは生じます。確率的にタバコを吸っている人に肺がんが多いというのは、いわゆる疫学調査であって、本質的ながんの原因究明がなされた訳ではありません。しかしながら、子宮頸がんに関しては、ここ20,30年の間に大きな医学の進歩があったように思います。子宮頸がんの原因が、性交渉を通じたヒトパピローマウィルス(HPV)の感染によっておこり、ワクチン投与により、70%もの方が、その感染を予防できるという事実です。すでに、オーストラリアのように、12、13歳を対象に、13~18歳までの学校終了までの期間に、全員が無料で受けられるようになっている国があることや、イギリス国内では、12歳女子へのワクチン接種率は、およそ90%に達していて、その背景には学校教育、テレビ、携帯サイト、ホームページなどでの広報活動の存在があったことも事実です。近くの国で言えば、韓国も投与が開始されています。主として欧米諸国、世界108カ国でワクチンが承認、使用されているのです。がんの発症を100%防ぐというわけではありませんが、70%(日本国内では、60%ぐらいになる見込み)の子宮頸がんの予防できる医学的見地から、きわめて有用なワクチンであり、画期的な医学の進歩といえるでしょう。
国内でも、遅い進行ではありますが、何とか近々、ワクチンの投与承認許可がもらえる見込みとなってきました。ともあれ、多くの人たちが、上記の情報を知ってもらいたいと願う次第です。国によっても若干異なりますが、投与時期のほとんどが、12、13歳というきわめて低い年齢であることは、おそらく多くの方々がびっくりするように思います。理由は、性行為を開始する前だと、高い効果が望めるからです。
●その上で、日本のお父さん、お母さんが、自分の中学生の娘さんにワクチンをうけさせるかどうかが問題となってきます。日本では、性の問題が、欧米諸国と比べて、タブー視されてきました。性教育のほとんどが、保健体育の授業(おもに女子生徒のみを対象)のみにゆだねられ、家庭内で話し合われることはきわめて少ないのが事実だと思います(特に父親が話をすることは皆無といってもいいでしょう)。これは、それぞれの国の歴史的な背景によるのかもしれません。そんな状況の中で、おそらく3万円から5万円(未定)もするワクチンですから、自分の娘さんに打つかどうかに関して、両親の判断、そして、両親から娘さんへの説明も必要になってくるわけです。すなわち、学校任せにしていた性教育を、家庭の場でも話し合わねばならない時期に来たともいえるでしょう。幼児のように、何のワクチンだか説明もしないで打ってしまうわけにはいきませんね。
●これまでの学校教育に任せていた性教育の在り方を、見直す時期なのかもしれません。
ワクチン承認された後、ワクチンの普及や接種は、産婦人科医が主に行うでしょう。しかし、12、13歳のお子さんが親と一緒に産婦人科に受診となると、かなり抵抗をしめすことが懸念されます。ワクチン普及には、行政(厚生労働省)、教師(学校)、両親、小児科医、メディア、製薬会社、インターネットなど、多くの分野、人たちの、性に対する適切な指導が必要となってきます。12,13歳の女子たちが混乱しないように。
●12、13歳の娘にワクチン接種を行うことが、性交に対して『お墨付き』につながるのでは、という反対意見もあり、たとえば、アメリカの一部でも反対運動がありました。
ただし、国内の現状の初交年齢や( http://homepage3.nifty.com/m-suga/young.html )
、若年者における性の知識の普及度を鑑みると、12、13歳の娘さんに、ワクチンの重要性を説明したからといって、必ずしも、性交を『よし』とすることにはならず、親子で、性について考えるよいきっかけにもなるのではないかと、私は思っています。すなわち、ワクチン接種の問題だけではなく、妊娠や避妊の問題、性行為感染症の問題など、良い方向に、性教育が広まっていく可能性も多々あると思います。なかなかこれまで、妊娠や避妊、性行為感染症といった問題を家で、娘さんと議論するきっかけがなかったように思いますが、子宮頸がんという病気からであれば、それを突破口として、避妊や性行為に関して話をする場をつくる契機にもなるように思います。
●この画期的なワクチンを、若い女性の性行動や性教育も含めて、円滑に普及させることは意義があります。公的助成や、厚労省のリーダーシップなども期待したいところですね。

TBS特番放送を終えて

9月8日、TBSの夜の特番で、「ネプクリニック!開業 180度変わる医学常識 今夜スッキリ解決SP」が報道されました。収録は3時間あまりにも及び、私も含め医師9名、皆、疲弊した様子でしたが、最終的にはとても上手に編集され、多くの方々から反響のメールを頂戴しました。ありがとうございました。
出演者:原田泰造、堀内健/司会:鈴木おさむ、テリー伊藤、加藤シルビア、名倉潤、竹内香苗
シワ&たるみ消失!?耳の皮ふ培養で肌が10年若返る超最新美容術▽熱が出たら汗をかけ…は大間違い!?ビールは飲んでも太らない!?これまで常識だと思っていたことが、今では逆になっている医学の「新常識」を紹介する。専門医がその根拠を解説し、パネリストが自由に質問する。パネリストはネプチューンの原田泰造、堀内健。司会はネプチューンの名倉潤、竹内香苗アナウンサーでした。

2009年9月5日土曜日

政権交代と舛添厚生労働大臣

 総選挙は民主党が圧勝に終わりました。政権交代によって、医療現場がどう変わっていくのか、まだまだ全く不明瞭です。少なくとも民主党が選挙前にかかげた医療に対する政策は、再検討する必要があると危惧しています。民主党がかかげる医師数の1.5倍増員にも、各大学医学部が受け入れ困難と難色を示しています。私は、医師の偏在化(地域間の偏在、診療科別の偏在)の打開策を考えない限り、医療崩壊は止まらないと思います(私の著書、『産科医が消える前に』、朝日新聞出版に記述http://www007.upp.so-net.ne.jp/morita/)。医師の偏在化の是正こそ、医療崩壊を止める鍵だと感じます。
 さて、選挙前後、ましてや政権交代とすると、各大臣の存在感はなくなり、大人しくしているのが通常でしょうが、今回の舛添厚生労働大臣だけは、輝いて見えました。日本で第一号患者が出たときの記者会見や、その後の水際対策には、批判的な意見も多く、私もこのブログで批判してきました。しかし、今の舛添大臣は、違うように思いました。9月4日の時事通信によれば、
 「厚生労働省は4日、新型インフルエンザのワクチンについて、接種対象者の優先順位案を発表し、診療に当たる医療従事者を最優先とし、次いで妊婦と持病のある人、小学校就学前の小児、1歳未満の乳児の両親の順で優先グループとした。同省は国民から意見を募集。専門家や患者団体側の意見も聴き、月内に正式決定する。国内4社が来年3月までに製造可能なワクチンは約1800万~3000万人分にとどまる見通しで、優先グループにまず割り当てる。小中高校生と高齢者には国産が足りない分、海外メーカーから輸入したワクチンを用いる。輸入ワクチンは当初、国内の臨床試験(治験)を省略する「特例承認」を検討するとしていた。しかし、国内で使用されたことのない免疫補助剤(アジュバント)が添加されており、副作用リスクが高いとみられることから、接種開始前に小規模な治験を行い、接種後に問題が生じた場合には使用を中止することにした」。
 立つ鳥跡を濁さずという言葉がありますが、最後の最後まで、よくがんばっている様子を感じました。少なくとも、新型インフルエンザに対しては、自民党が四苦八苦し、試行錯誤して、ここまでにたどり着いた経験が、民主党へ円滑に引き継がれることを祈願します。

2009年8月16日日曜日

民主党の医療政策(マニフェスト等から)についての私の検証

 月末の総選挙で政権をとるであろう民主党のマニフェスト等、医療に関する政策に関して私の検証を書きました。
 一部は、サンデー毎日8月16日、23日号に、連載されます。
結論は、民主党は今一度、現実を見据えた政策を再考すべきではないか、ということです。

●民主党の新型インフルエンザに関する考え方
目前にある危機は中程度の毒性ウイルスによる第二波到来。危機管理体制を再構築、診断・相談治療体制の実態を速やかに把握できるようにする。発熱センターを強化し、感染症対応の隔離個室確保、整備。各医療機関の診療マニュアル策定、陰圧個室設置、治療用テント、医療資器材、施設設備を国の予算で十分な額を支援。徹底した情報開示を恒常化し、新型インフル行動計画ガイドラインを全面的に見直し、検疫法のあり方を検討。強毒性新型インフルのプレパンデミックワクチンを希望者すべてが受けられる体制を整備し、輸血を介した感染防止の新技術を導入。被害を最小限にとどめるため日中韓を中心に東アジア全体で新型インフルに対応できる体制をつくる。
私の検証(民主党の新型インフルエンザ)
民主党が「目前にある危機」としてマニフェストに掲げた「中程度の毒性のウイルスによる第二波の到来」に対して、「感染症対応の隔離個室確保・整備」と明記していたことには驚きました。これでは医療現場がパニックを起こすでしょうね。隔離個室の確保には通常個室を転用しなければならないし、増床などすぐにはできないことで、そのために、がんや糖尿病などで個室入院中の患者に移動してもらわなければなりません。診療所や民間医療機関はそれを避けるため、新型の疑いの患者を敬遠することも考えられます。まさしく、この政策は、医療崩壊を助長することになります。そもそも、自民党がすでに、「今回の新型インフルエンザは弱毒性で、季節性インフルエンザと同等にあつかう」と、それまでの自らの政策に関して、反省をこめて経験を生かして結論づけたことが、全く引き継がれられないことは、残念でたまりません。「発熱センター、隔離個室、陰圧個室、治療用テント」、すべて、時代の後戻りです。どうして、新型インフルエンザだけが、毒性を変えると断定し騒ぐのだろうか? 季節性インフルエンザで多くの死亡者がでていることや、毒性を変える可能性もあることを理解してもらいたい。むしろ「院内感染対策の徹底」や「医療従事者の感染防止強化」など、経験を生かして医療が求める政策をたてた自民党の方が賢明だと思います。また、民主党は「希望者のすべてが受けられる体制に整備」としていますが、実際、生産量には限度があり不可能なことは、わかっているはずです。ワクチンの争奪戦になれば国際問題になるのは避けられないでしょう。「東アジア全体で体制をつくる」というのも、国際的にはよくわからない話である。

●民主党のがん対策に関する考え方
国内どこに住んでいても最善のがん検診・治療が受けられる体制を確立させる。乳がんや子宮頸がん、大腸がん、肺がん、胃性が高いがん検診受診率を大幅に向上させるよう受診しやすい体制を整備。がん予防に有効なワクチンの開発・接種の推進、禁煙対策のがんなど有効徹底化等を通じて、がんの予防対策をより一層強固なものにする。また、がん患者への最新のがん関連情報の提供や相談支援体制などの充実を図り、日本のがん対策の現状把握、がん登録の法制化も検討。化学療法専門医、放射線治療専門医も養成。
私の検証(民主党のがん対策)
マニフェストで、民主党は「国内どこに住んでいても最善のがん検診・治療が受けられる体制を確立させる」と明記していますが、しかし、具体的にそれをどう進めるかには触れてはいません。これは、医療崩壊をくい止めるための、医師の地域間、診療科間の偏在性是正というもっとも重要な問題です。たとえば、僻地医療をになう勤務医の収入を大幅に上げる、国公立大を奨学金で卒業した学生は僻地赴任義務を10年間負うといった抜本的対策に踏み込まない限り改善は進まないのではないかと思います。自民党も「医師偏在の解消へ向けた臨床研修医制度」と書いてはいますが、残念ながら、制度は2年。3年目には医師が希望地へ散逸していくのは防げないのでしょうが、民主党の漠然とした理想論よりは、より具体的かもしれません。

●民主党の救急医療に関する考え方
救急本部は、通報内容から患者の緊急度、重症度を判断し、継承の場合は医療機関の紹介等を行い、重症の場合は救急車や消防防災ヘリ、ドクターカー・ドクターヘリ等、最適な搬送手段により医療機関に搬送。そのため現在96台のドクターカーをすべて209ヵ所の救急救命センターに配置し、72機の消防防災ヘリをドクターヘリとしても活用できるよう高規格化し救急本部ごとのドクターヘリ(現在16機)配備を目指す。救急救命士の職務拡大を着実に図る。救急搬送時、意識障害の鑑別には血糖値の測定が必要であり、救急救命士も簡易な血糖値の測定ができるよう体制の整備に着手。
私の検証(民主党の救急医療対策)
ドクターカー、ドクターヘリなど、アトラクティブな語彙を並べているが、これで何人の数の患者が救われるのか、大きな変革、抜本的な改革にはならないと思います。また、救急救命士の血糖値測定というきわめて、末端なことに触れたのはなぜなのか、これも疑問です。
救急医療対策でもっとも大事なのは、前述した医師の地域間、診療科間の偏在性是正でしょう。民主党も自民党も、医師数増加をあげているが、もっとも大事なのは、偏在化の是正です。自民党の言う「大学病院の医療体制を整備し、医師偏在の解消へ向けた臨床研修医制度とする。社会保険病院・厚生年金病院については、地域医療の確保の観点から必要な病院機能を維持するよう対応する。診療報酬は救急や産科をはじめとする地域医療を確保するため、来年度プラス改定を行う。」の方が、まだ具体性があるように思います。

2009年8月8日土曜日

妊婦の新型インフルエンザ、抗インフルエンザ薬の使用

 妊婦の新型インフルエンザ感染に関して、日本産科婦人科学会は8月7日までに、「妊婦もしくは褥婦に対しての新型インフルエンザ(H1N1)感染に対する対応Q&A」を改訂しましたhttp://www.jsog.or.jp/ 。この中で、「妊婦は重症化しやすいことが明らかになりました」と注意喚起し、タミフルなどの抗インフルエンザ薬の状況に応じた早期服用や予防的服用を勧めるよう医療関係者に求めています。妊婦がインフルエンザ様症状(38度以上の発熱と急性呼吸器症状)を訴えた場合の対応について、「産婦人科への直接受診は避けさせ、地域の一般病院へあらかじめ電話をしての早期受診を勧める」としています。これは、妊婦から妊婦への感染を防止するため、重要なことと考えます。
 タミフルなどの投薬は、妊婦の重症化防止に効果があるとしながらも、抗インフルエンザ薬の胎児への影響については、「抗インフルエンザ薬を投与された妊婦および出生した児に有害事象の報告はない」との2007年の米国疾病予防局ガイドラインの記載を紹介した上で、服用による利益が「可能性のある薬剤副作用より大きいと考えられている」としています。医療現場では、「可能性のある薬剤副作用より大きい」かどうか、という判断はなかなか難しいのが現状でしょう。
 また、妊婦にかかわらず、患者と密に接した人たちへの抗インフルエンザ薬への予防的投与についてはまだ議論があります。無論、客観的にリスクの高い人への投与は重要でしょうが、皆が過剰に心配して、我が国だけが、多量の薬を消費してしまうことを危惧します。

2009年7月5日日曜日

インフルエンザに関する身近なお話

 今日は、身近なお話をブログに書き込むことにしました。「すてきな奥さん(主婦と生活社)」9月号、(8月1日発売)でも、詳細を監修します。

●ためになるであろうQ&Aです。
(1) 新型インフルエンザが世界的に流行しているから、海外旅行、海外への出張は、中止にした方がいい?→これには、賛否両論があるようですが、国際的には間違いのようです。6月18日のWHO事務局長の発言でも、「警戒水準の引き上げに当たって、渡航制限、旅行、企業活動自粛など人やモノの移動を制限する措置が必要のないこと」を説明しています。
(2) 熱がそんなに上がっていないから(たとえば37、7度)、インフルエンザではない?→熱だけでは判断できず、熱があまりあがらないインフルエンザのこともあります。
(3) 風邪ぐらいで仕事を休むなと職場の上司に言われました。がんばって仕事に行くべき?→これは、大きな間違いです。休むべきです。今回の新型インフルエンザの騒動を契機に、職場でも、無理して出勤しない。それぞれの人が、病気で欠勤した場合の対策を考えておくことが肝要かと思います。
(4) タミフルとリレンザ、どっちがいい?→まだどちらがよいか、はっきり立証されていません。しかし、タミフルが効きにくい新型インフルエンザもわずかに発見されつつあり、その場合にはリレンザが主役になります。
(5) 熱が下がっても念のため薬は飲み続ける?→熱が下がっていても、感染力がなくなったとは言えませんので、医師の指示に従うべきです。
(6) 新型インフルエンザもワクチン予防すれば問題ないんでしょ?→従来の季節性インフルエンザでも、予防接種(ワクチン)の効果は70から90%で、限界があります。新型についても、今後の成績を見なければわかりませんが、ワクチンをうったから大丈夫ということは、ありません。ワクチンをうった上で、様々な予防法が重要です。
(7) 若いからインフルエンザなんて病院にいかなくって自分で治せる?→新型インフルエンザは、若い人ほどかかりやすいことが立証されつつあります。理由ははっきり分かっていませんが、大人は、このウィルスに近いウィルスに幼少時に暴露され、抗体を有している可能性が指摘されています。ですから若い人ほど、医療機関での診断、治療が必要となります。

●秋冬には、季節性インフルエンザ、新型インフルエンザの両者の患者数が激増することが予想されます。すなわち、気温が低くなり、かつ空気が乾燥すること(10℃前後で、乾燥した環境でウイルスが繁殖しやすい)によるものです。また、将来的には変異する可能性(弱毒性から強い毒性に変わること)も、否定できません。しかしながら、タミフルに効かないインフルエンザが出てきても、リレンザや現在開発中の薬などまだまだ対応は可能と思います。最後に、以前のブログでも記載しましたが、インフルエンザの予防法を書きます。
(1)栄養と休息を十分にとって免疫力、抵抗力を高めること。(バランスのよい食事、十分な栄養、睡眠をとること)。(2)咳をしている人の近くにずっといない。近づいたらと思ったら、早めにうがい、手洗い、歯磨きをする。(3) 加湿器などを使用し、湿度を50%以上に保つ。(4) 予防接種をうける。従来の季節性インフルエンザでは、70から90%の方に効果があったようです。新型インフルエンザについても、作成が始まっていますが、投与開始は、秋以降のようです。

2009年6月19日金曜日

新型インフルエンザの医療体制の見直し

  厚生労働省は6月19日、新型インフルエンザの医療体制や検疫などに関する「医療の確保、検疫、学校・保育施設等の臨時休業の要請等に関する運用指針」を改定しました。医療体制に関する今回の見直しの特徴は、「発熱外来」を行っている医療機関に限らず、原則すべての医療機関で新型インフルエンザの患者の診察を行うとした点です。「季節性インフルエンザに対応している医療機関であれば、それに準じた扱いをしていただきたい」(新型インフルエンザ対策本部)とのことです。なお、今回の運用指針では、検疫、サーベイランス体制、学校・保育施設等の臨時休業の要請などについても見直している。
  以上は、まさしく一か月前に私が自分のブログに記載した内容です。これまでの厚生労働省の努力が無駄だったとは言わないまでも、どこまで感染拡大を予防できたのか、とても疑問ですし、予算の使われ方にも問題があったと指摘する医師が多いのが現状です。国内に入ってくる前から、このウィルスに関する情報や、死亡率などは、わかっていたわけですから、もっと、『冷静な対応』ができたはずなのですが。。。。

2009年6月13日土曜日

WHOの見解

WHOの新型インフルエンザに対する警戒水準が、オーストラリアなどでの感染増加を背景に、フェーズ5からフェーズ6に引き上げられました。ただし、現段階では、感染の大半が、特に治療の必要がない程度の軽症患者が多いことから、WHO事務局長は、「警戒水準の引き上げに当たって、渡航制限、旅行、企業活動自粛など人やモノの移動を制限する措置が必要のないこと」を説明し、各国に冷静な対応を求めています。
この報道は、もちろん国内では取り上げられたものの、なんら大きな動きはありません。旅行会社は大きな打撃をうけ、経済、教育界にも大きな影響を及ぼしているのが国内の現状です。国内での秋の第二波に準備するべく、WHOのいう冷静な対応がまさしく必要です。発熱外来の電話応答がメディアで報じられている状況をみましたが、発熱外来への受診を指示される人と一般病院の外来でかなわないとされる人の線引きが、電話での問診では極めてあいまいです。国内に入ってくる前からわかっていたことですが、軽症例がほとんどであることを鑑み、発熱外来の存続意義が問われます。もやは、発熱外来の役目はないのではないかと思います。通常の季節性インフルエンザと同様、一般の病院で、診断、投薬するべきなのではないでしょうか。今こそ、国の指導力が問われる時です。

2009年6月12日金曜日

動画の配信休止

公式HP( http://www007.upp.so-net.ne.jp/morita/ )より映しておりました動画ですが、諸事情により、配信を中止しました。これまで多くの方に、閲覧していただき誠に光栄に思います。

2009年6月7日日曜日

メディアに求めるもの

 新型インフルエンザに対するメディア報道がパタッと姿を見せなくなってきました。累積患者数は増加しつつあるものの、幸いなことにほぼすべてが完治しつつあり、ひと安心の表れなのかとも思います。しかしながら、水際対策をはじめとする厚生労働省の一生懸命な努力によって、このようなよい結果をもらたしたのかどうか、疑問をもつ医師らも増えています。先日の国会でも、現職の厚生労働医系技官で医師の木村盛世氏 http://www.kimuramoriyo.com/  が、厚生労働大臣の目の前で、今回の水際対策を強く批判をしていたことには、とても勇気ある姿勢だと感じました。ただ、国会の場で、エビデンス、科学的論拠に基づいた対策とか、専門的な議論にまでは発展されず、十分に木村氏の発言の真意が伝わらなかったことは医療に従事する者として残念でした。なんとなく「現場は大変」という感じのみでとらえられてしまったようにも思いました(私の公式HPの動画、番組「ちちんぷいぷい」を参考に)。彼女は、米国ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院疫学部修士課程修了(MPH[公衆衛生学修士号])。優れた研究者に贈られる、ジョンズ・ホプキンス大学デルタオメガスカラーシップを受賞した感染症学でのトップレベルの人材です。まだまだ議論は絶えませんが、これからの問題は、冬になって、従来の季節性インフルエンザと、新型インフルエンザの両者の患者は激増することは間違いありませんので、その際、対応に関して区別はできないのではないかと思う次第です。今からこのような議論をメディアが率先して追及していくべきではとも感じます。

 また、今回の新型インフルエンザの大報道に合わせて思うことがあります。一年ほど前に、私が「産科医が消える前に(朝日新聞出版)」を出版したころは、盛んに産科医療崩壊、産むところがない、そしてさらには、救急医療の崩壊、医療全体の崩壊、、、と盛んにメディアも取り上げて、ほぼすべての番組が特別番組を組んだり、ニュース等で特集を組んでいました。厚生労働省も全力で改善すると宣言していましたが、医療の現場は、そのころとほとんど変わっておりません。現在は、そのような報道も姿を消し、何事もないように静まりかえっています。一年前に執筆した私の本を、今、読みなおしてみても、書きなおすところはないほど、何も動いていない、というのが現場の声です。厚生労働省の仕事の幅が多すぎ、分割案なんかも出されていますが、手段はどうにせよ、とにかく、改革を進めてもらいたいというのが現場の声であり、メディアが率先して継続的に報道していただきたいと、お願いしたい所存です。

2009年6月6日土曜日

公式HP,動画の閲覧状況

公式HP(http://www007.upp.so-net.ne.jp/morita/)より映すことになった動画ですが、たった一週間で下記のような再生回数になりました。多くの方々に、ご閲覧いただきありがとうございました。

●フジテレビ・ザ、ベストハウス123・奇跡の胎児手術、監修・出演再生回数 1992 回
●テレビ朝日、爆笑問題の面と向かって聞けない噂のクエスチョン お医者さん編再生回数 2321 回
●西川のりおの言語道断・ 新型インフルエンザ(国の政策などに関する論評) 再生回数 504 回
●日本テレビ、ザ!世界仰天ニュース(出産スペシャル) 再生回数 2143 回
●日本テレビ、ザ!世界仰天ニュース(出産スペシャル)再生回数 1915 回
●毎日放送(TBS系)、ちちんぷいぷい、新型インフルエンザに対する国の対応について再生回数 162 回
●テレビ朝日 スーパーモーニング 紀子様帝王切開時の解説 再生回数 64 回

2009年5月27日水曜日

私設秘書室誕生

本日から、私設秘書室がOPENになりました。平日、祝祭日を問わず、朝9時から夜9時までの、お電話での対応となります。

03-5459-4767 (秘書室直通)

それ以外の時間は、メールで対応いたします。

2009年5月24日日曜日

公式HPに動画導入予定

近日中に、これまでの、医療ジャーナリストとしての活動の一部が様々な形で動画となり、公式HPからアクセスできる予定となりました。

2009年5月22日金曜日

西川のりお氏との対談(動画)

新型インフルエンザに対する国の一連の対策などに関する論評を、「西川のりおの言語道断」(BS11、2009年5月20日)で、約40分間の対談となりました。

2009年5月19日火曜日

エビデンスに基づいた対策を

医療においては、Evidence-based medicine (EBM)といって、科学的根拠に基づいて診療方法を選択決定することが重要です。すなわち、今回の新型インフルエンザの対策に対しても、ある対策をとった場合と、とらなかった場合で、有意な差をもって、感染防御に役立つかどうかという科学的根拠に基づき対策方針がとられるべきです。今回の日本の水際対策のように、国をあげてがんばって、一人も侵入しないように努力する(厚生労働大臣の口癖のようです)という、エビデンスのない努力は、残念ながら、方向性が間違っているようで、経費や時間の無駄になります。そして人権侵害にまで発展するという意見まで出ています。たとえば、現在、マスクが売り切れになっている国内の事情。本当にマスクがどこまで重要なのでしょうか?WHOからの論文にエビデンスガ書かれてあります。新型インフルエンザを発症した人がマスクをつけること、発症した人の1m以内に近づく場合に、マスクを適切に使用すること、これらは効果(エビデンス))はあるようですが、いわゆる、街中を歩いている人が、マスクをつけていることにはエビデンスはないようです。アメリカから成田に着いたアメリカ人も、機内で1時間も待たされたあげく、マスクが全員に配布され、びっくりしたようで、「このマスクが税金で買われていることに、日本人は怒らないのか?」と、感想を言ったようです。その他、国内でエビデンスがないとしてもやられていることとしては、患者の出ていない学校の閉鎖、集会の自粛や中止、機内検閲、患者と接触した可能性のある人の隔離、渡航自粛などがあげられるでしょう。一生懸命にやろうとする国の気持ちはわかりますが、まさしく科学的ではく、政治家のエビデンスに基づいた医療対策ではないでしょうか?水際対策が感染拡大を防ぐことは、ほとんどないか、まったくないわけです(SARSでも同様)。200人近い感染者を出した日本でも、水際で食い止めた人はたった4人だったわけですね。

(参考のサイト)
●マスクに関するエビデンスhttp://www.who.int/csr/resources/publications/swineflu/masks_community/en/index.html
●渡航自粛、水際対策を推奨しないとするエビデンスhttp://www.who.int/csr/disease/swineflu/frequently_asked_questions/travel/en/index.html
●木村盛世オフィシャルWEBサイト
http://www.kimuramoriyo.com/

2009年5月18日月曜日

新型インフルエンザ、国こそ冷静に

新型インフルエンザ大騒動。
国、厚生労働省、地方自治体は、大きな間違いをしてませんか?
結論からすると、これは、最初から、通常の季節性インフルエンザと同様に扱えばよかったということになりますね。
日本の大騒動に対して、同じように考えている国内外医師や、厚生省検疫官現役医師、WHO職員、欧米専門家も多かったようです。

致死率も、従来の季節性インフルエンザと、それほど変わるものではありません(これまでの報告では、通常の季節性インフルエンザで、0.1%、新型で0.4%ですが、この値は、メキシコでの死亡の数が多いので、それを考慮すると、新型はそれほど高い死亡率ではありません)。また、治療薬もある日本がどうして、患者の出ていない学校や様々な集会まで閉鎖にしなければならないのか、患者でない人を隔離しなければならないのか、WHOや欧米の専門家達も、まったくエビデンスのないこと、としています。人権侵害にも発展しかねないという人もいます。それだったら、従来の季節性インフルエンザの患者さんにも同じような対応をすべきではとも考えてしまいます。

現在は、地方自治体の発熱外来で対応していますが、今後は絶対にキャパシティがなくなりますし、現在の病院事情からすれば、患者隔離など不可能になります。すぐに、通常のインフルエンザと同様に、病院および自宅対応にしてよいと思いますがね。すなわち、新型患者が出ても、タミフル、リレンザを出して、自宅で安静。重傷者のみ入院にする。すでに、さきほどから、神戸ではそのような対応になったようで、それは懸命だと思いますが、まだまだ各地はパニックしています。

国のリーダーが、最初から、きちんと説明すべきだったのです。政治家ではなく、できれば専門家にゆだねて、過剰でない、適切な初期対応。とくに、国民のパニックやメディアのパニックを生じさせないような気配りが第一だったように思えてなりません。国は、国民に冷静にと言っていながら、結局、派手な水際対策、発熱外来と騒ぎを拡大させ、一番冷静ではなかったようです。

厚生労働大臣の会見では、水際対策でなんとしても全力をあげて国内侵入を防ぐと言っていましたが、これは政治家の発言で、大変がんばっているとは思いましたが、医学的には不可能なことは、最初から明瞭でした。症状がでる前の時期、すなわち、ウィルスを持って潜伏期に入国した人が山ほどいるからです。機内検閲や、サーモグラフィーは、症状もなく潜伏期で入国した人々のことを考えれば、意味がないことと考えられます。一台、300万円もするサーモグラフィーを数百台もの費用は、もったいない気もしてなりません。100人以上もの感染者がでて、その中で、水際での検出は4人です。防御服を着て、細菌テロに立ち向かうような機内検閲は、どの他の国から滑稽ともとられたようですし(BBC放送も報じていました)、その効果はなかったわけです。最初から、機内検閲はWHOは意味がないといっていました。

新型インフルエンザは、最初から特別あつかいするものではなく、通常のインフルエンザと同様にあつかうべきだったのだと思います。

株価や、経済界、教育界、その他に影響がでるまでの、大騒ぎとなった責任は、国の初期対応と過剰な反応、冷静さを失った国の対応にあったと思います。

2009年5月17日日曜日

新型インフルエンザについて思う

ブログ作成、一日目です。

新型インフルエンザについて、医療ジャーナリストとして思うことを書きました。
(まずは、インフルエンザの一般論、そして、現在、厚生労働省や地方自治体のやられている対策に対しての論評です。) 

この内容は、5月18日月曜日、21:00、BS11,西川のりおの言語道断にて、スタジオゲスト生出演にて対談となります。

●まずは、インフルエンザと一般の風邪との違い
(1)風邪の原因には、さまざまなウィルスが関与しているといわれています。その中でもインフルエンザウィルスによって生じる風邪は、流行性感冒ともいわれ、発熱、関節筋肉痛、倦怠感などの症状が強く、場合によっては死亡することもあります。
(2)2002年に、通常の風邪なのか、インフルエンザによる流行性感冒なのかを約15分で診断できるキットが世にでまわり、また、2001年からは、タミフル、リレンザといった、インフルエンザに対する薬も使用されるようになりました。

●新型インフルエンザとは
(1)これまでのインフルエンザには、A型ソ連型、A型香港型、B型、C型などが報告されてきました。
(2)新型インフルエンザは、豚、ヒト、鳥のインフルエンザウィルスの遺伝子が、豚の体内で混合、進化してできたまったく新しいもの。ただ、症状は、従来のインフルエンザと症状はほぼ同じで、タミフル、リレンザという薬も効果があります。弱毒であり、我々、医師の間では、新型も、従来の季節性インフルエンザとほぼ同じと考えています。
(3)WHOの5月13日の報告では、従来の季節性インフルエンザによる致死率は0.1%だが、現時点での新型インフルエンザの致死率は、0.4%と、報告されています。ただこれはまだ流動的です。
(4)また、特徴的なのは、10代、20代の人に感染者が多いということです。もしかしたら、似たようなウィルスの抵抗力を持っている大人が多いのではないかとも推察されています。

●従来のインフルエンザ、新型インフルエンザの予防法、予防接種の見通しは
いずれの予防法も同一です。
(1) 栄養と休息を十分にとって免疫力、抵抗力を高めること。
(2) つづいて、咳をしている人の近くにずっといない。早めにうがい、手洗い、歯磨きをする。
(3) 国内では、マスクが爆発的に売れていて、それが有用であるということで、病院でもほとんどの医師がマスクをして普通の患者さんの治療にあたっていますが、どうやら、これには賛否両論があるようです。欧米では、症状が出ている人がマスクをするのは他人にうつさないようにするために有用だが、症状のない人がつけても、予防効果にはエビデンス(施行することの根拠)がないと言われています。欧米では、マスクをつけている人は「犯罪者か重症者」という認識があり、日本人のマスク騒ぎには、欧米人は、「マスク姿の異様な集団」と報道しています。ただ、どこまで、医学的な予防効果があるのかはわかりませんが、マスクをしていることで、インフルエンザ予防を意識しているという意識作りにはつながっているようには思います。
(4) 加湿器などを使用し、湿度を50%以上に保つ。(乾燥したところでは、ウィルスが空気中を舞いやすい)。
(5) 予防接種をうける。従来の季節性インフルエンザでは、70から90%の方に効果があったようです。新型インフルエンザについても、作成が始まっていますが、どこまでの量を作成できるか限界があるようです。

●タミフル、リレンザ、どんな薬か
いずれもインフルエンザの発症48時間以内に、使用すれば症状は軽快し、かなりの効果があるといわれています。一時期、従来のインフルエンザのうち、最も多いAソ連型には、効かないのではと報道されたこともありましたが、実際の医療の現場では、インフルエンザの種類を問わず、いずれも効果があるようです。新型インフルエンザに対しても効果があります。

●厚生労働省の水際対策に対して
(1)今回、厚生労働省は、徹底した水際対策をやってきましたが、ただ、これだけの労力をかけるわりには、効果は少ないであろうという医師の意見も多い。ある、現役の厚生労働省検疫官の医師も、WHOが推奨していない機内検疫を中止すべきだと言っているようです。医療には、エビデンスといって、科学的論拠という意味ですが、何かをする場合、それをした方が、しないよりも、統計的に意義があるということに基づく対策、治療をすべきだという大原則があります。今行われている水際対策については、現実としてどこまでエビデンスガあるのか、疑問を唱えている医者が多いようです。
(2)たとえば症状のある帰国者を抽出し検査できても、潜伏期にあるひと(すなわち、ウィルスに感染しているがまだ症状が出ていない人、通常はその期間は、1週間から10日ぐらいあります)は、国内に確実に入っています。追跡調査をするといっても、事実上不可能だと思います。当初、一人も感染者を出さないということは、鎖国でもしなければ無理だったのではとの指摘もあります。
(3)ただ、今回の水際対策、とても精力的で、感染者を一人でも国内に出さないという意気込みを感じている人も多いですし、国をあげて新しいウィルスから守ろうという努力に、異論を唱えることは異端者のようですが、WHOからの情報では、検疫に、疾病の広がりを減らす機能があるとは、考えていない。2003年のSARSの流行時でも検疫が有効ではなかったという報告もあります。
(4)イギリスのBBCなどが報じたニュースでは、日本と同じく島国であるイギリスのヒースロー空港と成田空港を比較し、機内検閲などおこなっている日本のありかたが異様に映ったようです。

●各都道府件の発熱外来の対応は
(1)発熱外来を、各地方自治体が作成されることは、とても意義があると思います。これからは、水際対策にお金をかけるよりも、国内の感染者に対する治療する施設の整備の方が重要になってくるかと思います。
(2)ただ、この対応もとても格差があります。中には、発熱の患者さんと、医師は、隔離されたスペースで、電話でやりとりして、感染しているかどうかのキットの使い方を説明し、白黒ついてから、対応するなど、とても大がかりのことをしていることもあります。
(3)そこまでのことを、冬の季節性インフルエンザも流行し、患者数が激増する状況の中で、実行できていくのか、キャパシティにも疑問を感じます。40名の感染者がでた今日、新型インフルエンザの患者のみを特別扱いしていくことは、あまり得策ではなく、今後は、従来の季節性インフルエンザと同様、通常の医療機関での対応となる可能性が高いと思います。治療法もありますし、致死率も高いものではありません。ですから特別扱いすることではなく、厳戒体制の緩和(橋下知事も提言)をせざるを得ないのではと考えます。

●新型インフルエンザの疑いのある患者さんの診療拒否、真相は
(1)病院の中には、地方自治体の指示にしたがって、まずは、発熱外来へ連絡をと、言ったことを診療拒否ととられた例もあるようですが、地方自治体の発熱外来から、新型インフルエンザの可能性はないから診療してくれとの指示に対して拒否する病院もあったようです。
(2)現在、充実した隔離病棟を持たない病院がほとんどですので、もし、ここまで騒がれている新型インフルエンザ患者が自分の病院に来院し、完璧な隔離や処置ができなく、院内感染などが生じた場合には、その病院が批判されることを恐れる気持ちも理解できます。まさしく委縮医療、怖いことには手をださないという医療崩壊の表れでしょうね。医療側、医師側も、過剰すぎる反応をして、冷静さを失いつつあることが危惧されます。

●今後どうなる
爆発的な感染拡大は、季節的に考えて、すぐに起こる可能性は少ないように思いますが、問題は冬ですね。
冬は、温度が下がり、湿度も低く、インフルエンザウィルスが繁殖するときです。このころに、新型インフルエンザと、従来の季節性インフルエンザを区別して、新型インフルエンザの患者だけを重症、特別扱いして、隔離させる余裕は、今の医療の現場でないように思います。両者とも、通常のインフルエンザ感染として、診療をしていく方向性にあると思います。

●今回の水際対策で隔離された人たちは、仕事もできず、どんな心境なのでしょう?
新型インフルエンザと診断され、隔離、治療されている人は、ご本人も納得されているのでしょうが、しかし、その人と近くにいた、同じ飛行機だったというだけで、一週間とか10日間、隔離された多数の人々は、仕事にも影響し、経済上の問題、人権問題に発展する懸念もあります。現在は、これだけの騒ぎだし、国の政策だから仕方ないと、妥協されているのでしょう。ただし、将来的に、この水際対策がWHOや欧米が言うように、効果がないということがわかれば、大きな問題につながるようにも思います。

●今回の厚労省の発表は、太平洋戦争の『大本営発表』と同じと批判している現場の医師もいると聞きましたが、
(1)全く未知のウィルスで、一たび感染すれば、ほとんどが死亡するとか、そのようなものであれば、ここまで大騒ぎもわかります。しかし、今回の新型インフルエンザは弱毒性であり、なおかつ、従来の季節性インフルエンザの治療薬であるタミフル、リレンザという薬も有効との報告があるので、従来の季節性インフルエンザとほぼ同様の対策でよいのでは、とも思っている医師が多いようです。国は、冷静に冷静にと国民に呼びかけていますが、実は、国自体が冷静さを失っているのではという指摘も多く聞かれます。WHOの報告では、従来のインフルエンザに感染した際の死亡率は、0.1%で、新型は0.4%とのことだが、これは、まだ十分な統計上のデータではないとのことです。なぜなら、新型での死亡者は、メキシコにほとんどがおり、先進諸国の死亡数は、たった数人のみなのです。
(2)今回、関西地方で、渡航歴のない人にも新型インフルエンザが発生して、国のコメントは、「徹底的に感染経路を早く突き止め」と会見していますが、これは、医療に携わる者としては、不可能としか言いようがありませんね。国内感染の方が、だれと接触したのか、それを全部洗いだすことなんかできるわけがありません。
(3)これは、地方自治体ですが、現在の状況で、患者でない人を隔離、学校閉鎖、集会の禁止をすることは、無効なだけではなく、経済活動にも大きな影響を与えるでしょう。いまからそのような状況では、流行が予想される冬には、学校に行けなくなる、仕事ができなくなるそんな事態を危惧します。
(4)これだけの水際対策をしても、渡航歴のない人の感染例の方が多いということは、WHOや欧米諸国が唱えているように、水際対策の効果はなかったのではないかと判断せざるを得ません。

●これから国民が一番、何を気をつけなければならないか?
まず、新型インフルエンザにせよ、従来の季節性インフルエンザにせよ、感染が疑われた場合には、無理して仕事や学校に行かない。これが重要だと思います。風邪ぐらいで仕事を休むなという、風習というか、日本人の努力的な性格が悪さをしてしまうことを危惧します。発熱外来、医療機関へ相談を、これに尽きると思います。
また、会社や学校も、感染の危険のある人を、休ませる環境づくりも必要だと思います。